おもに完全ワイヤレスイヤホンで使われているBluetoothオーディオの伝送コーデック。標準装備のSBCに加え、より高品位で低遅延を歌ったAACやaptXが普及し、さらにはSBC・AAC・aptXでは不可能だった24bitまでのビット深度や、96kHzまでのハイサンプリングにも対応し、「ハイレゾ相当」の品位を備えたLDACやaptX Adaptiveも出てきています。
そこに、さらなる新コーデック・aptX Losslessが加わりました。これはSBC・AAC・aptXはもちろん、LDACやaptX Adaptiveではハイレゾ相当とは言え、不可逆圧縮をかけていた弱点を無くし、もとのPCMデータと完全に同一のデータの送受信(FLAC同様の可逆圧縮)を可能にするコーデックです。
ただし、ビット深度は最高16bit、サンプリング周波数も44.1kHz止まりとCD品位となっています。
しかし、ハイレゾ相当でもデータの不可逆圧縮を行うと音質が聴感上劣化する恐れもあり、aptX LosslessではCD品位であっても、元データからの聴感上の劣化は原理上はありません。
そもそも、CD品位とハイレゾの聴き分けができるのかも科学的に明確になっていない一方、圧縮による音質劣化は感知できるという見方もあります。
いずれにしても聴く音源はCD品位までが中心、全て、という人にとっては、aptX Losslessが唯一元信号に忠実な伝送が可能なBluetoothコーデックとなるだけに、注目する価値は多いにあるでしょう。
aptX Lossless対応完全ワイヤレスイヤホンは2022年から出始めていますが、まだまだ少ないのが現状です。aptX Lossless対応完全ワイヤレスイヤホンを発売順にご紹介していきます。
世界初のaptX Lossless対応完全ワイヤレスイヤホンとして、2023年12月23日に発売されたモデル。オープン価格で税込みの実売価格は4.6万円程度。
完全ワイヤレスイヤホンとしては結構強気な価格ですが、これはaptX Lossless対応だからというよりも、本機独自の高音質志向の内容・装備が理由のようです。
ドライバーは10mmのダイナミック型で、再生周波数帯域は20Hz-40kHz、感度は101dB。
BluetoothはVer.5.3、コーデックはaptX LosslessのほかSBC/AAC/aptX/aptX Adaptive(96kHz/24bit)をサポート。マルチポイントにも対応。
聴覚測定によって個人に音を自動で最適化するパーソナライズドサウンド機能を搭載。加えて、「Nura Pro EQ」で聴覚プロファイリングデータを手動で調整し、好みに追い込むこともできます。
スウェーデン・Dirac社の「Dirac Virtuo」による空間オーディオ機能も搭載。周囲の騒音に合わせて微調整を行うアダプティブアクティブノイズキャンセリング機能も搭載。
通話用に骨伝導マイク2つを含む計8個のマイクを内蔵。通話品位も追求しています。
連続再生時間はイヤホン単体で約8時間、ケース充電含め約32時間。ケースはQi規格準拠のワイヤレス充電も可能。
aptX Lossless対応はもちろん、音質最適化、音質調整、空間オーディオといった高音質機能を活用したいユーザーに向いているモデルのように感じられます。
Boseの完全ワイヤレスイヤホン最新モデル「QuietComfort Earbuds II」。2022年の発売当初はaptX Losslessに対応していませんが、2023年初頭のソフトウェアアップデートで、aptX Losslessに対応させるとの情報が出ています。具体的な日程などが発表され次第情報を追加します。
QualcommとBOSEの間で協業を進めているという状況もあり、今回のアップデートになるようです。
aptX Losslessに対応すると自動的にaptX Adaptiveにも対応となるようなので、これまで高音質コーデックへの対応が消極的だったBoseの完全ワイヤレスイヤホンがいっきに高音質コーデックを纏った最新ギアになるというのも驚きです。
デノン(DENON)の完全ワイヤレスイヤホン PerL Pro(AH-C15PL)は2023年7月1日に発売。税込みの実売価格は5.7万円程度。
本機は外観からもわかるとおり、世界初のaptX Lossless対応完全ワイヤレスイヤホン・NuraTrue Proとまるで同じ外見で、見た目の違いと言えばロゴマークくらい。
実際、製品情報を見ても内容も同等のようです。聴覚測定によって個人に音を自動で最適化するパーソナライズドサウンド機能、スウェーデン・Dirac社の「Dirac Virtuo」による空間オーディオ機能、周囲の騒音に合わせて微調整を行うアダプティブアクティブノイズキャンセリング機能なども同じです。
というのも、Nuraとデノンはともに医療機器などを展開する米Masimo Corporationの傘下である米Sound Unitedに所属していることが原因しているようです。今回、NuraTrue Proの販売をやめて、デノンブランドのイヤホンとして新たに販売されることのようです。
ネット上ではラベルを張り替えただけというような辛辣な意見もありますが、そんなことはないようで、本機の音質チューニングは同社のサウンドマスター・山内慎一氏が行っており、「パーソナライズ機能とあわせ、デノンのVivid & Spaciousサウンドを狙った通りにお届けする」としています。そのほか、使用する専用アプリなども変わっている可能性もあり、NuraTrue Pro販売以降のノウハウも追加された安定版となっていると思われます。
aptX Losslessコーデックをサポートし、適応型アクティブノイズキャンセリング(アダプティブANC)にも対応したインナーイヤー型モデル。2023年7月7日に発売。価格は8,980円。
「Snapdragon Sound」対応で、aptX Adaptive使用時は最大96kHz/24bitの伝送が可能。BluetoothコーデックはaptXとAAC、SBCもサポート。マルチポイント接続にも対応。13mm径の振動板を採用したダイナミックドライバーを搭載。
最大再生時間はイヤホン単体で約6.5時間、充電ケース併用で約26時間。充電時間はイヤホンが約1.5時間、ケースが約2時間。iOS/Android用のアプリ「SOUNDPEATS」から、10バンドEQを利用可能。
aptX Losslessコーデック対応完全ワイヤレスイヤホンでは2023年7月時点でもっとも安いモデル。安いだけでなく、完全ワイヤレスイヤホンでは珍しい、インナーイヤー型ながらANC機能も搭載。機能やスペックも立派で、コスパの高いモデルといえるでしょう。