中国のオーディオメーカー・Cayin(カイン)が、ポータブルオーディオプレーヤー(DAP)新モデル・N3Proを本国で発表しました。本国での価格は2,998元 (約4.5万円)および、ドルでの価格は$479(約5.1万円)。日本国内でも8月末に発売されるとCayin Japanが発表しました。国内代理店のコペックジャパンも製品紹介ページを8月10日に公開しました。
追記:8月28日に国内正式発表があり、発売日は9月4日、価格(オープン価格)は税込み約6万円ということです。国内発表の内容を踏まえて、以下の製品説明内容も加筆しています。
DAPとしてはそれほど高価とは言えない価格帯ながら、なんと真空管を採用したヘッドホンアンプを搭載しているという非常に特徴的なモデルです。
真空管を採用したDAPと言えば、同じくCayinのN8がありますが、価格が30万円以上という高額なハイエンドモデルで、簡単には手の出しにくい高嶺の花でした。
そこへ本機です。一気に数分の一という安さで、これなら自分も購入できるという人がたくさんいそうです。他社に真空管採用のDAPがないだけに、価格や内容の比較が難しいのですが、とにかく、真空管搭載のDAPとしては価格破壊と言えるでしょう。
なお、型番が近く、何らかの関係がありそうな既存モデル「N3」とは真空管の有無も含めて、関係は薄いようです。つまり、「N3Pro」はほとんど新規の開発モデルのようです。
N8では最新の高性能真空管「Nutube 6P1」を採用していることも話題でしたが、「N3Pro」では、コストの関係から、ミニチュア5極管の「RAYTHEON JAN6418」を2本採用しています。必要な電圧、電流ともに少なく、発熱も少ない、バッテリーでも長時間使用できるといったポータブルオーディオ機器に必要な条件を満たた上、コスト面でも音質面でも納得できる真空管ということでの採用となったようです。
真空管をポータブル機器やコンパクトな機器でも使用して、真空管ならではのサウンドを楽しみたいという要望はかなりあるようですが、実際に製品化するためのノウハウはなかなかどこにでもあるのではないようです。
その点、Cayinは、1993年の創業当時から、真空管を使った据え置きアンプの開発を続けており、また、真空管ヘッドホンアンプでも随一の評価を得るなど、真空管オーディオメーカーとしての実績には高いものがあります。その実力を近年ではポータブルオーディオ分野でも発揮し、出来上がったのがN8と言えるでしょう。
また、N8以前にはCayinは真空管を用いない、通常のソリッドステート型のDAPにおいても、次々に話題作・人気作をハイコスパに送り出していて(DACとヘッドホンアンプをまるごと交換できるシステムで度肝を抜いた「N6ii」がその筆頭)、今や、ポータブルオーディオ分野において、ソリッドステートと真空管を融合した高音質なモバイルオーディオ機器をハイコスパに作れるメーカーとして、最初に挙げられるメーカーと言えるでしょう。
そのCayinがまさに満を持して、普及型の真空管搭載DAPとして送り出すのが「N3Pro」なのです。
「N3Pro」は前述のようにミニチュア5極管「RAYTHEON JAN6418」を2基搭載。真空管は3.5mmアンバランスのヘッドホンアンプ回路のみの適用となります。アンバランス回路では真空管とソリッドステートを切り替えてその音の違いを楽しむことができます。
さらに、真空管回路においては、三極管モードとウルトラリニアモードも切替え可能。一般に繊細でふくらみのある音質傾向と言われる三極管接続と、パワーやスケール感に優れるというウルトラリニア接続という音傾向の異なる真空管サウンドを切り替えて楽しめます。
なお、本機に搭載されている真空管の寿命はメーカーによると約3~5万時間。真空管の交換はユーザーではできず、メーカーに送って交換してもらう必要があるとしています。
真空管を使用したオーディオ機器を使う際は、真空管には一般のオーディオ機器の内部部品に比べて短い寿命があり、いずれ交換の必要があることを分かっておくのが前提となります。
「N3Pro」のDAPとしての内容です。サイズは115.2×63.5×18.9mm、重量は195gと、真空管を内部に積んでいるとは思えないほどコンパクト。普通のDAPでもこれよりも大きくて重いモデルはいくらでもあります。携帯性は十分です。本体ディスプレイは、3.2インチ/480×360のLG製IPSタッチスクリーンを採用。
内蔵ストレージは搭載しませんが、最大1TBのmircro SDに対応。そして、特筆点として、Type-C接続からのUSB-OTGにより、外部ストレージ(HDDやSSD)直接の音楽再生も行えるとしています。CayinのDAPでは以前から対応している機能ですが、他社ではなかなかない機能であり、大変注目できます。ただし、300mAを越える電力消費のものは使えないようです。
バッテリーは3.7Vの4100mAh。このサイズのDAPとしては普通ですが、どれくらい再生できるのかは現時点ではわかりません。真空管搭載にしては長く再生できることを期待します。追記:連続再生時間は、ソリッドステート/3.5mm接続で11時間、真空管/3.5mm接続と4.4mmバランスで9時間と国内発表されました。
OSはAndroidではなく、アプリの自在な追加やサブスクサービスの聴取には向きませんが、スマホから遠隔操作できるHiBy Linkに対応しているのは便利です。
DACチップは旭化成のAK4493EQを2基搭載。USB-Cによる入出力にも対応しており、ハイレゾ音源はPCM系で384kHz/32bit、DSD 22.4MHzまでの再生が可能な現代的なスペックを有しています。
イヤホン端子は上述のように、真空管回路とソリッドステート対応で別々の3.5mm径アンバランス2基に加え、4.4mm径バランスを搭載。バランスはソリッドステートのみの回路のようですが、フルバランス構成なので、音質的には期待できます。アンプ出力は800mW@32Ω(バランス)と十分。なお、真空管使用時のアンバランスでは130mW@32Ωです。
Wi-Fi搭載。Bluetoothは送受信でLDAC、AAC、SBC、UATに対応。意外なのは、BluetoothでaptX系コーデックが無いこと。本機に直接関係ないのですが、この数日で発表された、ソニーのBluetoothヘッドホン・WH-1000XM4でもaptXとaptX HDがばっさり前機種から廃止されていて、ネット上で賛否両論の話題となっていました。
なにか、Bluetoothオーディオ関係ではaptXを省く(クアルコムのチップを使用しないこと)傾向が起こり始めているようです。
とにかく、一般的なサイズ・価格・使い勝手に真空管サウンドを詰め込んだ「N3Pro」は幅広いDAP愛好家にとって、大注目の製品でしょう(DAP+Cayin)。