生産終了機器情報。DENON(デノン・発売当時はデンオン) DVD-5000は1998年に発売されたDVDプレーヤー。価格は税別27万円。
当時、20万円クラスのCDプレーヤーの鉄板的な定番機だった、DCD-S10シリーズにDVD再生機能を追加したようなモデルで、高音質なDVDプレーヤーとして売り出した経緯があります。
DENONではおなじみのハイビット・プロセッサーであるアルファ・プロセッサーの24bit精度版・AL 24 Processingをはじめて搭載したのも本機でした。本機はDCD-S10IIとDCD-S10IIIの間の時期に発売されたため、DCD-S10IIIよりも早くAL 24 Processingを搭載したのでした。
DACチップに「PCM1704」を左右合計4基搭載
DACチップもDCD-S10IIIと同じ、というかDACチップの名品中の名品と言われるバーブラウン「PCM1704」を片チャンネル2つずつ、合計4基搭載。片チャンネル毎に2個ずつ差動動作で使用する4DAC構成にすることで、原理的にゼロクロス歪みをなくすΛS.L.Cを搭載するなど、DCD-S10IIIと同じDAC回路となっているようです。
CDデータに20bitデータを入れ込んで専用デコーダーで20bitに復調できる「HDCD」デコーダーを搭載しているのも特筆点。HDCDデコーダーを搭載した新製品のCDプレーヤーやDACは2020年代以降は全くありませんから、この機能が欲しい方には注目です。なお、CD-Rの再生は仕様上不可能です。ご注意ください。
DCD-S10IIIと同じく同軸・光デジタル入力を持ち、単体DACとして使えます。入力対応スペックは16-24bit/44.1,48,96kHzと、今日でも使えるほどのレベル(88.2kHz非対応には注意)。DENONの機器で24bit/96kHzのDACモードに対応したはじめてのモデルだったと思います。
メカベース、トランスベースに鋳物を採用し防振性を向上させる、高剛性シャーシを採用する、デジタル・アナログ別の大型電源トランス、コンデンサーなどの部品も高品位品を投入など、当時のDENON・S10シリーズ同様の物量が投入されています。
アナログ出力はRCAアンバランス2系統。1つは可変出力なので、パワーアンプやアクティブスピーカーに直結できます。
高精度ビデオデコーダーと10ビット/27MHzの高速・高精度ビデオDACを搭載したというDVD部は化石レベル。今日のもっとも廉価なDVDプレーヤーよりもデジタル部分のスペックは低いかもしれません。
本機は発売当時、オーディオ評論家の長岡鉄男がDVDプレーヤーとして導入した場合、CDプレーヤーは別には要らないというほど評価していました。CDプレーヤーの音質としては当時発売されていたDCD-S10IIと同等ではないものの、DCD-1650ARよりは上と評していました。当時はDENONの1650クラスでも十分な音質と言われており、基本的にはCDプレーヤーとして十分な実力はあったということです。
本機は購入者などから内部構成が近いDCD-S10IIIと比較されることが多いものです。その比較評価としては、音の繊細さや情報量はDCD-S10IIIは及ばないものの、低音の迫力や音全体の力感・スケールはDCD-S10IIIよりも上かもしれないという評価が見られます。その理由として、映像回路をオフにできないことによる音の繊細さや情報量の後退がある一方、映像回路を積んでいる分、電源部がDCD-S10IIIよりも規模が大きいことによって低音の迫力や音全体の力感がDCD-S10IIIよりも上かもしれないようです。一方、下位の1650系とは色気や艶、微妙な陰影感といった点で差をつけているものと思われます。
管理人もこのDVD-5000を所有しております。音質的には当時のDENONらしいピラミッドバランスをベースに、音像の厚みと実体感を伴う、迫力と迫真性に富んだ再現性です。CD品位のハイビット化の効果も大きく、情報量も十分です。ハイレゾ音源をDACモードで聴くとCD以上の繊細さと情報量を楽しめます。音楽のリアルな感じを存分に楽しめます。
人によってはCDの再生音を美的に化粧しすぎと感じる向きもあるようです。これはAL24 Processingの功罪かもしれませんが、この回路を切ることは難しいようなので、CD(品位入力も)の音が気に入らなければ大変です。ただし、DAC入力で24bit入力を行えばAL24 Processingは動作しません。その場合はDAC部の素直な特性で音を楽しめるようです。
現在、同じような物量でCDプレーヤーを作るとこの倍くらいの価格になりそうです(現在のDENONの製品構成と価格を見れば…)。デジタル回路は進歩しても、電源やアナログ段の品位は当時も今も物量が影響するだけに、現行の数万円クラスのCDプレーヤーやDACでは本機の本質的なリアリティーにはとても及ばないでしょう。そもそもDACに関しても、本機の搭載するPCM1704は今もってマルチビットDACの伝説的名品として扱われ、現在でもそのデッドストック品を使った製品があるくらいです。
DCD-S10IIIより云々に関しても、電源ケーブルやRCAケーブル、DAC使用時はデジタルケーブルといったケーブル類とインシュレーターでうまく音質をコントロールすれば、繊細さや情報量、音のキレもうまく引き出せそうです(私もいろいろ実行して繊細でキレのある方向に持っていっています)。音場が狭いという意見もありますが、これもアクセサリーでコントロールすれば広がります。
中古品としてもお得です。DCD-S10IIIの動作品が9万円程度、DCD-S10IIでも6万円程度するなか、DVD-5000は2-3万円程度で買えるようです。DVDプレーヤーというカテゴライズがどうしても音質志向のCDプレーヤーというイメージにならないから安いのでしょうか。中古品が安定的に流通しているのは長岡鉄男の評価も影響しているのでしょう。ただ、これだけ発売から時間が経つとピックアップ不良品が多く、実際にはDACのみの使用を想定して買うことになるでしょう。その場合も2万円程度で買えます。ピックアップの互換品はまだ手に入るようなので、修理して使うことは可能なようです。
いずれにしても、PCM1704を搭載したDACを中古で2万円で買えるとしたら本機くらいではないでしょうか?