中国・FiiOは有線カナル型イヤホンの「FH11」を2023年9月1日に発売しました。オープン価格で、税込みの実売価格は8,800円前後。
BA(バランスドアーマチュア)×1基 + DD(ダイナミック型)×1基のユニット構成でBA型とダイナミック型のハイブリッド構成を採用した「FHシリーズ」のエントリーモデルながら、カスタム仕様BAドライバーやカーボンベースダイヤフラムDD、C字型音響管構造、亜鉛合金製ハウジングなど、FIIOがこれまでのイヤホン設計で培った技術を導入することで「価格帯を超える高品位なサウンドを実現した」としています。
10mm径のダイナミックドライバーには、上位モデルFH15やFF5と同様のカーボンベースダイヤフラムを採用。軽量で高剛性のカーボンを使うことで、歯切れ良く、滲みのないクリアなサウンドを実現したとしています。
高域用には特別仕様のBAドライバーを搭載。「単にクリアなだけではなく、適度にウォームでパワフルな音質を特長」としており、「より深く音楽に没頭できる」としています。
BAとダイナミック型の音色的な繋がりに配慮してネットワークを開発。「力強い低域を特長とするカーボンダイナミックドライバー、14kHz付近や18kHz付近の高域特性を特長とするカスタム仕様BAドライバーが、渾然一体となって音楽再生する」としています。
各ドライバーの長所を十分に発揮させるというダンピングコントロールシステムを備えた3チャンバー構造を採用。各ドライバーの歪みが減少し、低域の伸びとレスポンスが向上しているとしています。
内部に設けられたC字型音響管により、ハウジング内の空気の流れを適切に制御。共振周波数を下げることで、パワフルな低域再現を実現していると謳います。
巻き貝をイメージしたというハウジングは、亜鉛合金をダイキャスト成形、研磨、電気メッキを施して製造。人間工学デザインと三点支持により、装着性の向上も図っています。独自形状の0.78mm 2ピン規格ケーブルコネクターを採用。日本オーディオ協会が定めるハイレゾオーディオ認証を取得。
以下はFiiO FH11の仕様表です。
仕様 | 詳細 |
---|---|
形式 | 有線カナル型イヤホン |
ドライバー | – 10mm径ダイナミックドライバー×1基 |
– カスタム仕様BAドライバー×1基 | |
周波数特性 | 20Hz~40kHz |
インピーダンス | 24Ω(@1kHz) |
感度 | 111dB/mW(@1kHz) |
付属ケーブルプラグ | 3.5mm ステレオミニプラグ(金メッキ) |
付属ケーブル素材 | 無酸素銅素線120本×4本編み |
ケーブル長 | 約120cm |
重量(片側) | 約10g(ケーブルを除く) |
付属品 | – 0.78mm 2pinケーブル |
– バランス重視イヤーチップ3組(S/M/L) ※Mサイズを装着済み | |
– 低音重視イヤーチップ3組(S/M/L) | |
– クイックスタートガイド |
1DD構成のFD11の上位に当たるモデルで、BA型とD型のハイブリッド構成とすることで、D型だけでは難しい中高域の繊細な再現力を持たせているものと推測されます。また、BA型だけでは難しい低音の伸びや量感はD型で実現できるのもこの構成の利点でしょう。
FH11の音質に関する評価としては、弱ドンシャリでメリハリのある明るめのリスニング寄りサウンド、というのが多くのレビューで共通して浮かび上がってきます。
FH11の上位として1DD+2BAで約1.5万円のFH3があり、こちらはBAの繊細さをやや強調しているサウンド、下位のFD11はシングルD型によるバランスのよいサウンド、という違いもあり、FH11はこれらとは異なる傾向で住み分けしようという意図もあるのでしょう。BA型を使いつつも繊細さをむやみには押し出さず、D型による低音の存在感も強めなメリハリのあるサウンドになっているようです。
さすがにFiiOはサウンドチューニングがうまいようで、安価な中華イヤホンのハイブリッド型が陥りそうな高域の刺激感や歪み感は巧みに抑えられているようです。
聴感上はそれほどワイドレンジではなく、帯域内の密度を高めたやや厚みのある音調のようで、クールで薄味になりやすいFiiOのよくある音調とも異なっているようです。
クリアで元気のよいサウンドで音像を厚みを持って再現しつつ、ノリのよさや演奏の熱さを重視した方向性のようです。クラシックなどのアコースティック系よりもロックやポップス系の現代的なプログラムに合ったイヤホンに仕上がっているようです。
FiiOのイヤホンは音はいいけれどどこかクールで素っ気ない、モニター的などと思っていた向きには、これまでとは異なる傾向であり、新たなユーザー層を広げられるような意慾作になっているのかもしれません。
0.78mm 2ピンでリケーブル可能ですが、2ピンコネクター部はやや独自形状となっているので、使用できるケーブルに制約があることは、リケーブルを簡単に楽しみたい初心者には難しい仕様であり、残念です。しかし、この制約にひっかからないケーブルを見つけられれば、バランス接続対応のリケーブルもできるので、さらなる音質向上も狙えます。
下位のFD11では人によっては装着感に難しさがあると評されていましたが、本機ではおおむね装着感は好評で、ここはメーカーがうまく設計できたようです。
亜鉛合金製ハウジングの質感はとくに高級というほどでもなく、価格相応という評価が多いようです。
総じて、弱ドンシャリでメリハリのある明るめのリスニング寄りサウンドという音質傾向を踏まえたうえで、メーカー名にとらわれず、8千円台まででポピュラー音楽向けのハイブリッド型イヤホンを探している向きにおすすめできそうな印象です。