玉音放送の原盤は当然モノラルで、SP盤に記録されています。
長年世間に出回っている玉音放送の音は、原盤から高品位にリマスタリングやコピーされたものではなかったようで、あまり聴きやすいものではありませんでした。そんななか、戦後70年の節目の2015年に、宮内庁が録音原盤とその再生音声を初めて公開していました。その音質はこれまで出回っているものよりもクリアであり、その音質向上ぶりも注目されました。
となると、気になるのは、録音原盤からどのような最新のデジタル技術でリマスタリング・コピーがなされたのかということです。2015年ともなればデジタル化はハイレゾ品位が当たり前。モノラルのSP録音に現代のハイレゾ技術ではオーバークオリティーかもしれませんが、貴重な人類の記録は、そのとき最高の技術で後世に残すべきでしょう。
残念ながら、宮内庁の公開音源はハイレゾではなく、せいぜい16bit/44.1kHz品位のようです。
しかし、この公開時に原盤SPからデジタルトランスファーを行ったときに、ハイレゾのDSDでの記録がなされていたという情報を見つけました。
なんでも、このときのデジタルトランスファーを行ったのは現役のNHKの技術者ではなく、元フィリップス・クラシック社副社長であり、レコード制作にも携わっていた、レコードのプロである新忠篤氏だったというのです。
当初はレーザーターンテーブルで原盤SPを再生してデジタル化しようという計画だったそうですが、玉音放送の原盤SP(セルロース製の円盤)は可燃性のため、レーザーターンテーブルだと焼失の危険性があるため中止になったとのこと。
原盤SPを78回転でレコード再生してデジタル化を図ったとのことですが、正確なピッチを維持するために微妙に回転を調整するなどの難しい作業もあったそうです。
(原盤SPを当時録音したのは、現在のDENONである日本電気音響の「DP-17-K」可搬型録音再生機)
これら一連の作業やノウハウに関して新忠篤氏が携わり、現役のNHKの技術者ではないということが、過去の録音のデジタル化というものの難しさと、過去のレコード技術の継承が残念ながら日本ではうまく行われていないのかもしれないことを示しています。
新忠篤氏はクラシック音楽の著作隣接権切れ音源のSP盤のデジタル化・ハイレゾDSD化にも関わっており、クラシック音楽愛好家にはありがたい存在ではありますが、氏の卓越した技術の継承者もオーディオ業界、レコード業界、放送業界のいずれにおいても育って欲しいとも思います。
なお、玉音放送のハイレゾDSD音源については上記のとおり、残念ながら現在は公開されていません。宮内庁(国)が判断すれば、無料で公開・配布できるはずなだけに、いつか公開されることを希望します。