Shureは、バランスド・アーマチュア(BA)ドライバー4基搭載の有線カナル型イヤホン「SE846(第2世代)」を2022年9月30日より発売。オープン価格で税込みの実売価格は約13万円程度。
2013年に発売された有線イヤホンの最上位モデル「SE846」(発売当初価格は約12万円 その後は10万円前後で価格変動)の後継機にして第2世代モデル。
「SE846 第2世代」の内容・特徴を従来機「SE846 無印(第1世代)」と比較しての違いを交えながらご紹介します。
「SE846 無印(第1世代)」は10万円を超えるような高級イヤホンがまだ珍しかった時代に登場した注目モデルで、カナル型イヤホンとリケーブルの草分け的存在であるシュアから発売されたことや、その実際のサウンド、ノズル交換による音質調整などが相まって、高級イヤホンの標準機・ベンチマーク的存在となりました。
その後、2020年前後あたりから、10万円どころか数十万円クラスの高級イヤホンが溢れかえるほどの状況になり、シュアにも最新の設計を入れ込んだ新たな高級イヤホンが求められていました。
その回答が「SE846 第2世代」と言えるでしょう。
では、劇的な設計変更が行われたのかと言えば、それはノーです。なんと、イヤホンの基本構造(各ドライバーと筐体)は従来と同様。
音質を調整できる付属ノズルに「エクステンド」という新しいパターンを追加、付属イヤーピースにComply製ソフトフォームのXSサイズとComply製P-Seriesソフト・フレックス・スリーブ(S/M/L)を新たに付属されるというのが従来との違い。
つまり、イヤホン本体(と付属ケーブル)は同じで付属ノズルと付属イヤーピースに追加があったというのが、イヤホンとしての「SE846 第2世代」と「SE846 無印(第1世代)」との違いです。
これには劇的な設計変更を期待していた向きには肩透かしかもしれません。しかし、その理由は推測できます。
「SE846」はじめ、シュアのSEシリーズや近作のAONICシリーズなどの高音質志向型の有線カナル型イヤホンは、単に音楽愛好家の音楽鑑賞用イヤホンではなく、音楽制作やステージミュージシャンなど、幅広い音楽のプロが使うモニター用イヤホンという役割も意識されています。
このような業務用途を意識したイヤホンやヘッドホンは、基本的に頻繁なモデルチェンジは行われません。音の基準になる機器の音が頻繁に変わることを音楽業界人は望まないからです。その代表がヘッドホンではソニーの「MDR-CD900ST」(じつに1989年設計)であり、イヤホンではシュアの「SE846」ほかSEシリーズの一部モデルなのです。
となると、SEシリーズはその内容をほいほいと変えることはできません。しかし、「SE846」の場合は、音質を変化させられるノズル部分は後付け方式のために、この部分での新設計は可能だったということでしょう。
「SE846 第2世代」で新たに加わった新ノズル「エクステンド」について詳しく紹介します。
付属のツールを使ってノズル部を取り外し、中に差し込まれているノズルインサートを交換することで好みの音質に変えられる。このノズルインサートは1kHz~8kHzの高域範囲のチューニングを行なうもので、従来機では「バランス」「ウォーム(-2dB/1kHz~8kHz)」「ブライト(+2dB/1kHz~8kHz)」の3種類を付属していましたが、第2世代では新たに「エクステンド」が追加。
「エクステンド」は、一般のオーディオファンやオーディオ評論家、エキスパートと呼ばれるユーザーなどの声を元に開発。バランスとブライトの中間に当たる立ち位置で、中高域を強化。ステレオイメージと明瞭度を高め、空気感、豊かな奥行感を実現したとしています。
イヤーピースはComply製ソフトフォームのXSサイズとComply製P-Seriesソフト・フレックス・スリーブ(S/M/L)を新たに付属。従来のフォームタイプとフレックスタイプのイヤーピースも各S/M/Lの3サイズずつ備え、イエローフォームタイプとトリプルフランジタイプは各1サイズ同梱。
昨今のモニターイヤホンに求められるスペックとして、「ハイレゾ対応」があります。40kHzまでの再生能力と、関連団体のチェックを経て正式に付与されます。
従来の「SE846」は、ハイレゾ対応を謳ってはおらず、公称スペックも40kHz再生をクリアしていませんでした。
しかし、今回、「SE846 第2世代」ではイヤホン本体は変わっていないにも関わらず「ハイレゾ対応」を謳っています。というのも「SE846」はじつはハイレゾ対応相当の能力を持っていたにも関わらず、そのようにアピールしていなかったということのようです。
いずれにしても、現代の高級イヤホンとして、スペック上のハイレゾ対応は欲しい装備であり、音楽愛好家、音楽制作家の双方にとってもありがたいところです。
音質には直接関係ありませんが、カラバリは変わりました。
従来のクリスタルクリアー、ブル一、ブロンズ、ブラックから、クリアはそのまま続投、ジェイドグリーン、グラファイトシルバーの3色展開に変更。2色については、外側にだけカラーを施し、内側をクリアにすることで“内部が見える要素”を取り入れました。中が見えないカラーリングは無くなり、クリアなタイプのみになったということです。
以下は「SE846 第2世代」「SE846 無印(第1世代)」に共通の内容・特徴をご紹介します。
3ウェイ、4ドライバーを搭載したマルチBA型の有線カナル型イヤホン。BAユニットの構成は高域×1、中域×1、低域×2。すべて自社設計によるユニット。
入力された信号は、内蔵している3ウェイのクロスオーバーを経て、高域×1、中域×1、低域×2の各ユニットへと入力。低域用ユニットからの音が出る出口に、電気的なものではなく、アコースティックなローパスフィルターを搭載。
イヤホン本体の筐体は樹脂製。ノズルの素材はステンレスで、内部に着脱可能なチューブ型のフィルターを配置。このフィルターを、ユーザーが自由に交換できるようになっており、音をカスタマイズできるのが「SE846 無印(第1世代)」からの大きな特徴。
1kHz~8kHzの帯域で、約3~5dB変化させる事ができ、製品には標準的なサウンドの「バランス」と、「ブライト」(+2.5dB/1kHz~8kHz)「ウォーム」(-2.5dB/1kHz~8kHz)が「SE846 無印(第1世代)」「SE846 第2世代」ともに付属。「SE846 第2世代」のみ上記のように新たに「エクステンド」が追加。
イヤホン本体とケーブルはMMCX規格のコネクターでリケーブル(着脱)可能。付属ケーブルは耳掛け用にワイヤーフォームフィット機能を装備。スナップロック式のMMCXコネクターで本体と接続。ケーブルは、162cmと114cmの2本を同梱。入力端子はステレオミニ。
MMCX規格でのリケーブルは、イヤホンのリケーブルがまだ一般的でなかったころにシュアが採用したことから、今日、イヤホン用リケーブル端子として一般化しているという背景もあります。MMCX規格のリケーブル製品は、多くのメーカーから3.5mmプラグタイプはもちろん、2.5mmバランス、4.4mmバランスに対応するものも含めて、多数発売されており、「SE846」においても、それら社外品のMMCX規格リケーブルを用いることで音質の変化や、バランス接続を楽しむことができます。
イヤーピースはフォームタイプとフレックスタイプを、それぞれS/M/Lの3サイズ同梱。イエローのフォームイヤパッドや、トリプルフランジタイプも同梱。そのほか、ノズル交換ツール、6.3mm標準アダプタ、キャリングケースが付属。この内容は「SE846 無印(第1世代)」「SE846 第2世代」ともに付属。
「SE846 第2世代」ではイヤーピースはComply製ソフトフォームのXSサイズとComply製P-Seriesソフト・フレックス・スリーブ(S/M/L)を新たに付属。
インピーダンスは9Ω(1kHz)。ノイズ減衰量は37dB(最大)。37dBというノイズ減衰は、遮音性が高いイヤホンというシュアの定評を表す優秀なスペックです。もちろん、「SE846 無印(第1世代)」「SE846 第2世代」ともに同じスペックです。
「SE846 第2世代」は確実に付属品の追加によって、新たなステージに入ったと言えますが、新たな付属品を使わない限りは「SE846 無印(第1世代)」と比較して、見た目のカラー以外は変わらないという面もあります。
もし、「SE846 無印(第1世代)」の在庫品か中古が安く手に入るなら、そちらのほうが安くてお得だ、と考える向きもあるかもしれません。
一方、新しい付属品のうち、「エクステンド」ノズルに魅力を感じる向きもあるでしょう。その場合は「SE846 第2世代」は選択肢になるでしょう。
悩ましいのは、すでに「SE846 無印(第1世代)」を持っているユーザー。まさか、「エクステンド」ノズル欲しさに「SE846 無印(第1世代)」を所有しているまま、「SE846 第2世代」を買い足すのはあまりにも無駄です。
となると、期待したいのは、「SE846 無印(第1世代)」ユーザー向けに「エクステンド」ノズルのみを、補修部品用のオプションパーツ扱いなどで別売りしてくれること。しかし、「SE846 第2世代」発表時点でのニュース記事によると、「エクステンド」ノズル単体での販売はされないとなっており、これは残念なところです。
「エクステンド」ノズル目当て?に「SE846 無印(第1世代)」ユーザーが、市場に「SE846 無印(第1世代)」を中古で放出し、「SE846 第2世代」を買いなおす、といったことも少なからず起こりそうです。
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1stモデルの持ち主ですが、偽物のエクステンドモデルがオークションに出まわりそうだから、飛びつかないように気をつけようと思います。
コメントありがとうございます。
1stモデルの持ち主向けに「エクステンド」ノズルが国内でも正規にオプション販売されるといいのですが、難しいのかもしれませんね。