魔法瓶で有名なサーモスが、2015年より展開してきたオーディオ事業について、2020年3月31日をもって事業を終了すると発表しました。
サーモスは2015年にオーディオブランド「VECLOS」を立ち上げ、魔法びんで培った真空技術を応用し、スピーカーやヘッドホンなどのオーディオ関連製品を展開してきました。
「業界を取り巻く環境の厳しさが増す中で、オーディオ事業の状況および今後の成長性などを総合的に熟慮した結果」を理由に、オーディオ事業を終了します。
突然のことで驚くとともに、大変残念なことです。「VECLOS」のスピーカーやイヤホン、ヘッドホンは後発メーカーながら、かなり評価の高いブランドだったからです。
また、魔法瓶で培った技術を活かしているというのも大きな特徴で、実際に魔法瓶をスピーカーにしたかのようなデザインも独特で、他にはない存在感を放っていました。
この結果は最近のコロナウイルスの影響なのでしょうか。そうだとすればますます残念です。せっかくのノウハウはどうなってしまうのか、気になりますが、もともと他社に供給するための技術開発をデモンストレーションするためのブランドであり、今後は他社にこれまでの技術を提供するのではないかという予測をしている人もいました。実際にそうだといいのですが。
さて、「VECLOS」の終了は残念ですが、これまでに発売された製品の素晴らしさは変わりません。となると、「VECLOS」が気になる人でまだ同ブランドの製品を持っていない人は、できるだけ早く何かの製品を買うのがよさそうです。
となると、何が「VECLOS」の代表モデルなのかと言えば、「SSA-40S」という型番のBluetooth対応アクティブスピーカーではないでしょうか。
「VECLOS」のスピーカー、で検索すると「SPW-500WP」と「SSA-40S」の2つのBluetooth対応アクティブスピーカーがおもにヒットします。
このうち、より幅広いライトユーザー向け、かつ、汎用性の高さという点から「SSA-40S」を選びたいと思ったものです。また、魔法瓶を出自とする「VECLOS」をよく示す外見もポイントです。
「SSA-40S」は「VECLOS」の記念すべき第一弾製品として2015年に発売。当初は1万5千円くらいしました。
サーモスが魔法びんで培った真空技術と、パイオニアの音響技術によって開発された、エンクロージャーを高真空二重構造としたことを特徴とする、世界初のワイヤレスポータブルスピーカーというのが売りでした。
真空エンクロージャーによる、空気の振動を伝えない真空の特性を生かし、エンクロージャーから発生する雑音を効果的に遮断することで、本来スピーカーが発しているクリアな音を再現することが可能になるというのが、音質面でのメリットと謳っていました。
魔法瓶というよりも、小型の金属製マグカップのような外観で、非常にコンパクト。本体サイズは片チャンネル当たり52(幅)×94(高さ)×61(奥行)mm。重量は両チャンネルで300g。
40mm径のスピーカーユニットを搭載。アンプ出力は2.7W+2.7W。本体下部にリトラクタブル・スタンドを備えており、スピーカーの角度を好みの角度に固定できます。気をつけたいのは、本体にボリュームを搭載していないこと。接続機器側でボリューム調整する必要があります。ですから、ライン出力固定の機器とは直結できないことに注意してください。
バッテリーが内蔵されていて、駆動時間は6時間。電源入力はmicroUSB。AC電源環境で駆動したい場合も、microUSB接続可能なアダプターが必要です。モバイルバッテリーでの連続駆動も可能です。無信号が20分続くと、自動的に電源が切れるオートパワーオフ機能も搭載しています。
音声入力はBluetooth(SBCコーデックのみ対応)に加え、ステレオミニによるアナログ1系統。
なお、「SSA-40S」は片側にのみアンプが入った分離型ステレオスピーカー。片チャンネルのみの単体製品で、Bluetooth入力には対応しない「SSA-40M」も発売されていました。サイズは同じながら、バッテリー駆動時間は10時間、アンプ出力は3Wと少し違います。
音については、独自の価値観を突き詰めた点でかなり高く評価されています。それは、低音側の再生を意図的に捨て去っている代わりに、中高音域のクリアさや情報量の豊かさは、価格やサイズを大きく超えると言われます。
その実力は、DTM用のサブモニターにも使える、というレビューをプロの評論家が行い、実際に導入しているほどのようです。
これらの音に「高真空二重構造」なるものが大きく寄与しているのは間違いないようで、他のメーカーが簡単にまねもできないようです。どうやら、非常にエンクロージャーを真空にすることで、大気圧がかかり、エンクロージャーが強固に固定される制振効果が得られるようです。
スピーカーに低音は求めないけれども、中高音のクリアさや情報量はできるだけ欲しいという音質嗜好の持ち主で、なおかつ、できるだけ小型のアクティブタイプを求めているような人に向いているでしょう。ノートPC脇に設置するスピーカーとしても活躍できるでしょう。
普段はもっと大きくてワイドレンジなスピーカーを聞いている人のサブ機というのもいいかもしれません。
1万5千円までの予算で、できるだけ音のよいモバイルスピーカーを探している方にも適していそうです。
これからは新品での入手は時間を追うごとに難しくなるでしょう。コンパクトスピーカーの幻の名機と言われるようになってしまうのでしょうか。
超コンパクト、バッテリー駆動対応、セッティングフリー、フルレンジ、手頃な価格、低音は捨てて中高音のリアリティーを優先、シンプルな機構、といった本機が満たしている要素を並べてみると、思い起こすオーディオ評論家がいます。故・江川三郎氏(2015年1月没)です。
彼は大がかりで高額なオーディオコンポには否定的で、ポータブルCDやモバイルレベルのコンパクトスピーカー(いずれもうまく作られていることが前提ですが)こそ、音楽を真に楽しめるオーディオ機器だと公言し、実行もしていました。
本機も彼ならきっと注目したことでしょう(Bluetoothスピーカー+VECLOS)。