ソニー初の開放型モニターヘッドホン「MDR-MV1」
ソニーのモニターヘッドホンの新モデルで、同社初の開放型モデル「MDR-MV1」が2023年5月12日に、税込み実売価格約5.4万円で発売されました。本機の内容と、レビュー・音質情報をお届け。
ソニーのモニターヘッドホンとしてはじめて開放型構造を採用
「MDR-MV1」最大の特徴は、ソニーのモニターヘッドホンとしてはじめて開放型構造を採用したこと。これまでソニーのモニター向けヘッドホンは、MDR-CD900STはじめMDR-7506、そしてMDR-M1STと、いずれも密閉型でした。
その狙いとしては、開放型ならではの音場空間の広さや、定位感の再現性の高さを生かし、ソニーが推進する360 Reality Audio(360RA)という新しい立体音響再生規格で音源を制作するときのモニター用として意図していることです。
360 Reality Audioでの音源作成用を意図
360 Reality Audioを正確にチェックしながら音楽を作る際には、13個のスピーカーを適切に配置する必要がありますが、MDR-MV1は、これをこのヘッドホンひとつで実現できるように設計されています。
360 Reality Audioのエンコード自体は、比較的安価なソフトや機材で可能なので、アマチュアやセミプロでもできそうですが、13個のスピーカーを適切に配置するのは予算や場所などの点で難しく、これがネックとなり360 Reality Audioのエンコードが広がらない理由になりかねません。
しかし、MDR-MV1があれば360 Reality Audioのエンコードを低予算かつ容易に実現できます。
ヘッドホンとしての内容
MDR-MV1は、背面開放型音響構造を採用し、ヘッドホン内部の反射音を低減することで、信号処理で付与された反射音への影響を抑えて、正確に音場を再現することを狙ったとしています。
本機用に専用開発した、再生周波数帯域5Hz-80kHzという超広帯域再生を実現する40mm径のドライバーユニットを搭載。また、背面に音響負荷ダクトを直結することで、振動板の動作を最適化。これによって低域の過渡特性を改善し、低音域再生と中音域との分離感の両立を図っている。振動板の素材にはPETを使用する。
ドライバーユニットの前面と背面をつなぐ開口部を広く設けることで、音響レジスターによる通気のコントロールを最適化。これによって不要な空間共鳴を排除しつつ、色付けの少ない自然で充実した低音域再生が行えるよう配慮したとのこと。
ハウジングのグリル形状には、アールのついた富士山のような山形形状を採用。金属の一体型にすることで強度を確保し、共振の抑制も図っている。スエード調人工皮革イヤーパッドも採用し、長時間作業時にも快適に使えるよう装着感にも配慮している。
ケーブルは着脱式で、「MDR-M1ST」同様、ヘッドホン本体とはネジ式のロックリングによる固定構造を採用する。接続端子は6.3mm、3.5mm端子への変換アダプターも付属する。本体質量は約223g。音圧感度は100dB/mWで、インピーダンスが24Ω、最大入力は1,500mW。
360RA確認用モニターヘッドフォンとしての能力をフルに発揮させるため、“MiL Studioでユーザーが体験したサウンド”を測定して、ヘッドフォンで再現する「360 Virtual Mixing Environment」(360VME)という有料サービスが受けられます。(現在は本機のほか、MDR-M1ST、MDR-Z1R、MDR-Z7M2も対象ヘッドフォンとして挙げられています)
費用としては、360RAの標準的な13chフォーマット用のプロファイルデータで7万円前後の予定としています。
SONY MDR-MV1の仕様
SONY MDR-MV1の仕様は次のとおりです。
仕様 | 値 |
---|---|
タイプ | 開放型 |
ドライバーユニット | 40mm |
再生周波数帯域 | 5Hz-80kHz |
インピーダンス | 24Ω |
感度 | 100dB/mW |
重量 | 223g |
ケーブル | 2.5m ストレート ケーブル |
プラグ | 6.3mm標準プラグ |
機能 | 着脱式ケーブル、交換可能なイヤーパッド |
価格 | 実売54,000円(税込) |
SONY MDR-MV1 レビューサイト情報
SONY MDR-MV1 各種レビューから読み取れる傾向
モニターヘッドホンとして十分な性能・実力
基本的にプロ用途も含めた、音楽制作などのモニタリング向けのヘッドホンであり、その目的に適う音質・性能は十分に備えていることはどのレビューからも読み取れます。
密閉型モニターヘッドホンの近作・MDR-M1STと再生周波数範囲は全く同じであり、つまり、今日のハイレゾ音源制作時代に対応した超ワイドレンジです。それは音質からも聴きとれるようで、低音から高音まで問題なく整然と鳴らし、ハイレゾ音源の情報量や質感を、CDレベルの音源とは差をつけて表現できるようです。
開放型ながら低音の伸びと量感に優れている
特筆されているのは、開放型ながら低音の伸びと量感に優れているという評価が多く、この点では全く密閉型にも引けを取らないほどのようです。さすがに低音は締まっているというよりも自然に豊かな傾向のようで、これが密閉型との違いかもしれません。
高音の聴感上の伸びは十分ながら、刺激的になることはないようで、目が覚めるような方向性ではなくやや落ち着いた印象で高音のモニタリングができるようです。
中音についても自然で無難な表現力を持っており、プロ用のモニターとしてのこれまでの実績・ノウハウも生きているのでしょう。
ボーカルと楽器の再現バランスとしては、ややボーカルに重点を感じるという人がおり、このあたりもポップスでのボーカルを重視するような、ソニーの伝統的なモニターの系譜が関係しているのかもしれません。
空間再現性や定位感については、これまでのソニーのモニターヘッドホンを上回る精度と評価する向きが多く、これは明確に開放型のメリットと受け取れそうです。
360 Reality Audio音源制作・再生用としては現状、唯一無二レベルの存在
これまでの印象は一般的なステレオ音源でのものであり、その範囲では密閉型の近作・MDR-M1STに似た音質傾向を踏襲しつつ、開放型のメリットをうまく取り入れたモニターヘッドホンといった感じです。ここまでだと、5万円台の開放型モニターヘッドホンとして、他社のライバルと圧倒的なアドバンテージがあるとは言えず、好みやおもにモニターするジャンルなどで選べる新たな選択肢といったところでしょうか。
これが、ソニーが本機を特徴づける360 Reality Audioで制作された音源の再生においてはソニーを含む他のモニターヘッドホンを大きく凌駕する再現性を示すようで、音場空間の広さ、定位感はもちろん、ヘッドホンでは極めて難しい頭外への空間の広がり、後方への音場の展開、定位、移動感の再現は、他のどのヘッドホンも超える能力を示すと断言できるようです。
360 Virtual Mixing Environmentでスピーカー並みの再現性と卓越したサラウンド
とくに、「360 Virtual Mixing Environment」(360VME)(上記参照)で個々のユーザーに最適化された状態で360 Reality Audio音源を聴いた場合は、スピーカーから音が鳴っているように聴こえるというレベルであり、ヘッドホンとして画期的な水準に達しているようです。ここでも背後からの音のリアリティーは他のヘッドホンでは不可能なレベルと断言できるようです。
360 Reality Audioで制作された音源を「360 Virtual Mixing Environment」を施して聴いたときの本機のサウンドをAVウォッチの記事では以下のように表現していました。
「空間表現能力の高さと、360VMEによってそれをフルに発揮した際の魔法のようなサラウンドは、“ヘッドフォンの限界を超えた”もので、非常に刺激的な体験だった。」
ここに本機の音質と存在意義が集約されているのではないでしょうか。
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